それは、夏の終わり頃の出来事だった。

私は、当時レストランのウェイトレスの

仕事をしていた。そのレストランは、

十一時から十五時までがランチの

時間で、十五時にレジ締めをして、

伝票の整理をすると言う決まりごとがあった。

その日は、忙しく、ランチが多く出て、

私は慌てながら店のテーブルで、その

仕事に追われていた。


 その最中、私のテーブルの左に

座ったお客様が、


「すいません」


 と、声をかけてきた。内心ムッとした。

私が忙しくしてるのが分かんないのかと。

そして、いかにも面倒くさげに、


「・・・はい」


 と、答えて立ち上がり、お客様の方を向いた

私の表情は、既に憮然としていたと思う。

そして、注文を取り終わり、仕事の

続きを始めると、


「何かむかつくよねぇ。何?あの態度」


 と、私を横目でチラチラ見ながら、文句を

言ってあるのが聞こえてきた。やばい・・・・・・。

と、思っていると、たまりかねたように

親子らしき二人連れの母親の方が、


「あなた、この店の店長とかじゃないわよねぇ?」


「え、あ。ハイ。そうですけど・・・・・・」


 その後、私は三~五分間くらい、散々

なじられ、怒られ続けた。余程、土下座を

しようかと思ったが、それもわざとらしく、

嫌味に見えるだけだと思って、

言葉少なめにただ、


「すいません・・・・・・」


 と、平謝りする他なかった。


 しばらくすると、そのお客様たちが

帰ろうとしたので、私はレジへと

走って行った。その間も怒られたが、

その中でもこころに残ったのは、


「そんな顔して、接客したらダメよ」


「確かにあなたは、忙しそうに

してたけど、それならそれで、

他のひとに頼めば良かったことでしょ?」


 と、言う言葉だった。普通だったら、

悪態をつかれ、睨まれても、おかしくない

状況であったにも関わらず、そのお客様たちは、

何故、自分達が嫌な思いをしたのか、また、

私の欠点を冷静に指摘してくださったのであった。

 その直後は、ただ溜息をついて、

落ち込んでいた私だったが、

今思えば本当に為になった出来事だった。

 以来、私は最大限の努力をして、どうしたら、

お客様に気持ちよく食べていただき、どうしたら

また来たいなと思っていただけるか、

色々考えながら、仕事するようになった。

つまり、自分がお客だったら、

どうして欲しいかをいつも考え、接客してゆくことが、

大切でありそれが接客の第一歩では

ないだろうかと考えるようになった。