「・・・・・・もう、生きてゆくことに疲れちゃった・・・・・・。

誰か殺してくれないもんかしらって、

時々思うの」


伏し目がちのゆりぃがポツリポツリ

と、呟いた。


一哉は、敢えて何も言わずに、

ゆりぃをただ優しく抱きすくめた。


ゆりぃは静かに涙を零し始めた。


・・・・・・どれだけ、時間が経っても

ゆりぃは、泣き止めずにいて、

一哉のシャツは、ゆりぃの流した涙で、

ぐっしょりと濡れていた。


「時々、そう思うの?」


一哉は、ゆりぃの頭を撫でながら、

訊いてみた。


「うん。時々ね・・・・・・」


ゆりぃは、しばらくして答えた。


「薬って、そうゆう時のための

もんだろ?もう、飲んじゃった?」


と、言うが早いが一哉は、

コップに並々と水を注いで、

持って来た。


「そんなもの、気休めでしかないのよ。

効用があるとかと言うよりも」


投げやりに言うと、ゆりぃは2~3日分、

ざらりと薬を手の平に出すと、

あっと言う間に、飲み干してしまった。


「おいっ!そうゆうのODって、

言うんだろ?何でそんなひでえこと、俺の目の前で、

するんだよ?俺は、何のためにいるんだよっ?!」


一哉は、ゆりぃのほっぺたを一発ぶった。


「・・・・・・ただ、寝ていたいのよ。

色々考え悩まなくって済むから。

あたしって、歩く悩み事みたいなにんげん

なんだから」


ゆりぃは、よほど元気がないのか、

反発もせずにただただ、今がどんなにか、

辛いことかも言わなかった。


「痛かったろ?ごめんな」


一哉は、自分のしたことをすぐ詫びた。


それにしても、何がゆりぃをそうさせるのだろうと、

一哉は考え巡らせてみた。


(衣食住は、ぜいたくなくらいだし、家事も

無理矢理やらせてる訳じゃないし・・・・・・。

あ。あの5年つきあった男のことかも知れない)


一哉は胸がチクリと痛むのを否定できなかった。


ゆりぃはと言うと、もうすっかり眠り込んでいた。

一哉は、ゆりぃを抱き寄せると、

心地よい体温に安心して、すぐに眠った。


・・・・・・ゆりぃは、朝5時頃、目を覚まして、

起き上がろうとしたが、まだまだ、眠気が

残っていて、すぐに横たわると、眠り始めた。


一哉はゆりぃの動く気配で、、目を覚ました。


「ゆりぃ?ゆりぃ?何だ、寝ちゃったんだ・・・・・・」


一哉はゆりぃの寝顔の辛そうな表情に、

昨日感じた胸の痛みをかんじて、

ゆりぃのほっぺたを撫でた。


(コーヒーでも、作るか)


こころの中でぼそりと呟き、

眠いながらも丁寧にコーヒーを落とした。

アイスコーヒー用の。

そして、グラスに氷を入れられるだけ、

入れるとコーヒーを注いだ。


そして、もう断ってしまって、数ヶ月経った、

タバコが無性に吸いたい気分がしたが、

一本として、ないし、買いに行くまでしては、

吸う気にはならなかった。


(ゆりぃも辞めてみればいいのになぁ。

あいつは、チェーンスモーカーも

いいところだよなあ・・・・・・)


一哉が、タバコを辞めたのは、ちょくちょく値上がりして

行くとか、ない時の感じる離脱症状に、

振り回されるのは、いい加減に疲れてしまった

せいだった。


「やぁよ~」


ゆりぃに禁煙の話をしてみたが、徹底して、

イヤだと言うばかりで、すぐに話を逸らそうとする。

一哉も根負けしてしまい、好きなように

させておいたが、内心、本当は気がかりでならなかった。


「いいのよ。ガンになっても吸うの!

あたしは、離脱症状って、狂いそうに

なるくらい、辛いんだって、何度も

言ったじゃない!いい加減にしてよ!」


初めの禁煙中の時は、目の前で

スパスパ吸われるのには、ムカつきっぱなしだった。

タバコの件で、何度、言い争いになったことか・・・・・・。


・・・・・・しばらくして、ゆりぃは、一哉が

ソファでアイスコーヒーを飲んでる横に、

黙って寄り添った。


「アイスコーヒー飲む?」


と、一哉。


「うん」


と、ゆりぃ。


「じゃ、待ってな」


一哉は、一応ミルクとシロップを

添えて、アイスコーヒーを持って来てくれた。


「ありがとう。それにしても、

昨日はごめんなさいね・・・・・・」


ゆりぃは、立ち上がると深々と

一哉に向かって頭を下げた。


「いいよ、そんなことしなくっても。

それよか、何で悩んでんのか、

訊かせてもらえないの?」


と、一哉。


「もう、ね。終わってしまって、今更

蒸し返しても、どうしようもないし、

忘れられないし、つまり、言う

つもりはないのよ、どこの誰にも」


と、ゆりぃ。


「ゆりぃが悩んでるのは、例のゲーム

好きの男のことだろ?」


と、一哉。


「分かってるなら、いいじゃない。

でもね、今はとても幸せなのよ。

でも、それと元彼とのこととは、

また、別の次元の話。

あなたを巻き込ませたくないの」


ゆりぃは、ちょっとだけ下唇を

かみ締め、アイスコーヒーを飲んだ。


「言った方が、楽になんねぇ?」


一哉は、ゆりぃの肩を抱き寄せた。

ゆりぃは、一哉の肩に頭を寄せた。


「話して楽になれる程なら、

それに越したコトはないんだけどね・・・・・・」


と、ゆりぃ。


「まあ・・・・・。過去は、変えられないしな」


と、一哉。いつものくせで、ゆりぃの長い髪を

人差し指で、巻きつけたり、撫でたりして、

お互いを癒しあうふたりであった。


「なぁ?何か欲しいもんとかないのか?」


と、一哉。


「そうねぇ・・・・・・。見るだけでいい感じだけど、

今時、ロケットペンダントとか、ハートの

ペンダントとかないものかしら?」


と、実は欲しかったりするゆりぃだった。


「原宿とかに行けば、あるのかもね」


と、一哉。


「でも、そんなところでうろうろしてたら、

また、ファンの子達に囲まれちゃって、

大変じゃない?」


と、ゆりぃ。


「まあ、確かにな。自分で言うのも何なんだけどさ」


と、一哉。


「何かのフォークソングに出てきそうな単語よね。

ロケットペンダントに、ハートのペンダント」


と、ゆりぃ。


「だな。本当に欲しいの?」


と、一哉。


「ううん。言ってみただけ。あなたは、いつも

あたしの傍にいてくれるから、要らない」


と、ゆりぃ。


「そうか」


と、一哉はと言うと、ゆりぃの髪に

両手を入れて、くしゃくしゃにして、肩を

寄せ、頭を撫でくりまわした。


「もう!何すんのよ~」


と、満更でもなさそげなゆりぃ。


「俺、ごはん作るから、ゆっくりしてな」


と、一哉。


「ええ~?あたしも手伝うよ~」


と、ゆりぃは一哉の背中から、抱きついて、

わざと邪魔をしてみたりした。


「こらっ!ゆっくりしてなさいっ!」


と、一哉が言っても、離れるどころか、

もっと、ピッタリとくっつくゆりぃだった。


「こらこら。ご飯、作れないじゃん」


と、一哉。


「好きよ。一哉。ずーっと、あなただけよ」


と、ぼそりと呟くゆりぃ。


一哉は、


「あ~?何?」


と、とぼける一哉。


「もうっ!聞こえてるくせにっ!」


と、ゆりぃは一哉の背中を力一杯、

叩きつけ始めた。


「こらっ!卵の黄身、潰れちゃったじゃないか!

これは、ゆりぃのね」


と、一哉。


「いいもーん。だって、意地悪するんだもん」


と、ゆりぃ。


「俺を怒らせるとそりゃあ、怖いぞー」


と、人差し指を頭からにゅっと出して、

鬼を真似しながらも、一哉はいつもの

くしゃっと崩れた笑顔を見せてくれた。


「あなたの笑顔には、癒されるわ。

いつも、笑った顔、見てたいから、

いい子にしてるよ」


と、一哉に抱きついて、離れないようともしない

ゆりぃ。


「ゆりぃ。サラダは作ってよ」


と、一哉。


「いいよ~」


ゆりぃは、何のサラダにするか迷ったが、

これと言って、浮かばなかったので、

フルーツヨーグルトサラダを作ることにした。


「ねぇ?コーヒーは、ホット?アイス?」


と、一哉。


「ホットがいいかなあ」


と、ゆりぃは言った。ゆりぃは、最近、

アイスコーヒーを飲んでばかりだったので、

そう答えた。


「うしっ!出来たぞっ!配膳、手伝ってよ」


と、一哉。


「うん、いいよ~」


と、ゆりぃはまた一哉に抱きついた。


(こんな日々が永遠に続けばいいのになあ・・・・・・)


朝は、ゆううつ気味のゆりぃは、一哉の傍に

いつも一緒に居ても、不安になる。一哉は、

バツイチだし、もてるし、あたしなんて、

一哉に釣りあってるのかなあとも、

時々、心配になってしまう。


「おっ!また、何か不安になってんのか?

どうした?」


うつむいたゆりぃは、静かに涙を流していた。

それは、とめどなく流れた。

まだ、こころが揺らいでいるゆりぃ。


(あたしなんて、一哉にはお似合いじゃない。

何も持ってない・・・・・・)


「よおしっ!こうしてやるぅ~」


と、一哉は言うが早いが、タオルを持ってくると、

乱暴にゆりぃの涙を拭いた。

そして、お姫様抱っこをして、ベッドの上で、

一緒に食べる準備をした。


「何が不安?何でもいいから、訊かせてくれない?

口、挟まないからさ」


と、一哉はトーストとコーヒーとサラダと、

目玉焼きを順番に食べながら、提案してみた。


反してゆりぃは、コーヒーしか口を

付けられずに居た。

おいしそうには、見えるのだが、のどに

何かが詰まってるような気もするし、胃も、もたれていた。


「ごめん・・・・・・。コーヒーしか飲めないみたい。

せっかく、作ってくれたのに・・・・・・」


と、とても申し訳そうに言うゆりぃ。


「気にしなくってもいいよ。誰だって、

落ち込むことってあるしさ。じゃ、

俺、もらってもいい?」


と、言うが早いが、ゆりぃの食事に

手を付け始めた。


「あんまり食べ過ぎたら、せっかく

キレイに痩せてるのに、、太っちゃうよ」


と、一哉の引き締まったお腹をつっつくゆりぃ。


「ジムには、行けるだけ行ってるんだよ。

そう簡単に、太ってたまるかっ!」


と、怒ったふりをする一哉。

「やぁだ。品川庄治の筋肉自慢のひとみたい。

あまり、ムキムキになるのも考えもんじゃなぁい?」


と、ゆりぃ。


「まあねぇ。俺が見せ付けるために、タンクトップで、

ステージに出たら、どーする?」


と、一哉。


「どうするもこうするも、ステージに

上がられちゃったら、どうしようもないじゃない。

呆れてひっそりと、帰っちゃうかもね?」


と、上目遣いの目でにやりと笑うゆりぃ。


「またまた~。アンコール終わっても、解体

始まっても、なかなか、帰ろうともしないくせに」


と、デコピンをゆりぃにかます一哉。


「いったぁ~い。何すんのよ!」


ゆりぃは、あえて反撃はせず、


「あ。あたし、タバコ吸おう」


一哉は、またかと呆れつつも、台所で、タバコを

吸い始めたゆりぃの後姿が、とても儚く、消え入りそうに見えた。


「ゆりぃ。やっぱり、俺より先には死なないでくれよ~」


今度は、和也が嗚咽が出そうになるのを堪えて、

ゆりぃに懇願した。


「それは・・・・・。そんなこと言われても、

あたしだって同じ気持ちなのよ。

でも、いいわ。あなたのほうが先なのが、常識かも

知れないわよ。案外、いいとこなのかもね、

地獄ってやつも」


と、呟くゆりぃ。


「おいっ!何で地獄なんだよ?」


と、一哉。


「あなたには、地獄が似合ってるかなぁと思っちゃたりして」


と、ゆりぃ。


「最近の俺の謙虚さを見ておらぬのか?」


と、一哉。


「ああ。そうねぇ。歌詞が年相応って感じがするわ。

でも、いいなぁって思ったのは、「寒い朝にこっそりおにぎり

握るように愛してくれない?」って、とこよねぇ。

そういえば、あたしたちって、朝はパンばかりだから、

たまには、和食にしましょうよ」


と、ゆりぃ。




えー。続くかどーか、

全く、分かりません。


ユリより。