悪気のないどしゃぶりの雨音と暗闇。

この季節になると思い出す(梅雨のこと)。

そして一人だと気付いた時の孤独が

とてつもなく怖くてたまらない。


子どもは、普通の家庭に生まれたかった。

台本があるとするのなら、同じ貧乏でも笑いの

絶えない家族の中のお調子者で、

明るい子どもといる設定でスタートしたかった。


その子どもは、母親に2回捨てられた子供。

一度目は5歳の時、季節は暑くも寒くもない

ただムシムシした風を感じる夜の灯りだけが

広がる中にキャラメルを一箱小さな手の平に

握らせ、母は、遠い目をして一度頷くと

暗闇の中に消えた。


走れば追いつけたはずなのに

どこまでも深い暗闇が母の姿を

小さく小さくして消していった。


子供は、成すすべもなくしあまりにも

怖い現実に疲れ果てるまで泣いた。


気が付くと冷たい父の醒めた背中だった。

子供は怖さのあまり嘔吐して

自分のやったことに血の気が引いた。


そして心の中で


「お父さん今度はどこに

連れて行くの?」


と怖くて震えていた。


二度目は最後の日だった。

子供は16才になっていた。楽しみは、

バイクと音楽といたって健全なものだった。


この日はバンドの練習から帰ると間もなく

電話が鳴り電話口では楽しそうな声が

騒がしい人々の声をバックにして

聞こえてきた。


母は、別れた父と月に一度会っては

酒を飲むというより、酒に飲まれては

子供に迎えに来てね。と連絡を入れてくる。

気がのれば言われるままに迎えに行く子供。


その日は悔しくも気がのった子供は

バイクに乗って迎えに行った。

帰り際に店のおかみさんが


「タクシー呼びましょうか!」


の一言に


「母は、一人ででも自転車に乗って、

帰ってきますから大丈夫です。

お気遣いありがとうございます」


と断りを入れて数分後。


子供は母の見るからに危なげな

自転車の運転が気になり

母の横に並び車道をゆっくりと

バイクを走らせていた。


するとヨロヨロ心配な運転と反し、

ドキッとする程の大きな声で

「危ない!前に行け!前を!」


子供は驚きはしたものの、

バックミラーで母の姿を確認しながら、

走っていた。


ある瞬間に母の姿がバックミラーから消えた。

子供はすぐに後ろを振り向き確認した。


母は渡らなくてもいい車道を斜めに

進み始めていた。

子供はバイクを端によせ車が行きかう道を

渡ることも出来ずただただ大きな声で


「お母さーん!」


と、何度も叫んでいた。


すると母の直前を白い車は大きくよけて

走り去り、その直後に二台目の黒い車が

母の姿を認識する間もなく母は、

撥ねられフロントガラスを割り、車の屋根より

高く時間が止まるようなドラマのスローモーションを

見ているような・・・・・・。


この日から子供の感情は

現実感を失った。


約一週間こころから祈った子供。


しかし母は何も話し掛けてくれることはなく

奇跡も起こることもなく、土砂降りの雨の日に

永い眠りに就いた。


・・・・・・あと三年経てば二十年が経つ。

それでも子供は生きて行く術を身に付ける

事の難しさに迷いながら生きている。


そして今32歳になってしまった子供だった私

年を取るにつれて私は思う。


「自分という存在のうとましさ」


正に耐えがたき事である。





これは、未来(妹の仮名)が5年前に

実際に起きた事件を書いたものである。

何故か、うちに紛れ込んでいたので、

ふと読んで見ると、いつも書いてた歌詞とは、

全く異なる手法で描かれている。


リアルであることが、一番の差である。


ここまで、思いつめていたのに、

あんなにもひとを大事に出来る

人徳の深い未来だったのだが・・・・・・。


年を取るにつれ、自己破滅型の

人生を送ることが多くなっていった。


その中で、一番未来を変えてしまったのは、

SMの女王様をやったことだ。


一緒に一度だけ、その店に行ったことがあったが、

あまりにもえぐい場面を見せ付けられるので、

かなりの気分の悪さやおぞましさを感じて、

あー、こんな店でバイトでもしたいなあと、

軽く考えて、面接の日時まで決めていたのだが、

あの怖気のする店で働く私が、想像できず、

電話で断った。


すると、未来は、


「ママはね、日本で5本指に入るくらいの

ひとなんよ!あんたがバイトの面接を

ママに直接言わんとかしたら、あたし、

この仕事出来んかも知れんとよっ!

もし、そうなったらどうしてくれるとよ!?」


と、怒鳴られてしまった。


でも。


マゾの女の子を寝かせて、股間を

こする男性達が信じられなかった。


あんあんと喘ぐマゾの女の子が

気持ち悪かった。


かなり太っていて、本気で笑われているのに、

にこにこして、綱で巻かれて、よつんばで

移動する女性が憐れだった。


そして、ママの登場。

白装束を着て・・・・・・。

それだけは、覚えていない。


そんな世界にいたら、

おかしくなってしまう。


だから、バイトをするのは、相当ためらったので、

つい、辞めますと言ったのだ。


未来は、てんかん持ちであった

子供時代があり、自殺で死んで、

焼かれた後、脳内に黒くて、ストローを

切り刻んだような物質がこびりついていて、

恐ろしくなった。


脳内出血なのだそうだ。それで、

最近、元気が全くなかったのだろう。


その上、かかりつけの医者が、


「あんたの病気は治らんよ」


と、言ってしまったせいで、

未来は絶望感で一杯になり、

自殺した。


何も本当のことを言わなくても、

気休めでもいいから、単なる一過性の

ものかも知れないよ、でも、一緒に

頑張っていこうねと言う思いやりもない、

冷酷な医者でしかなく、私は、怒鳴り込みに

行きたいくらいあるし、廃院に追い込みたいくらい、

憎んでいるが、それは未来の望んでいることではない。


なので、指をくわえて憎いと言う感情と、

一生戦わねばならない。


辛い・・・・・・。